インボイス制度の経過措置「80%控除・70%控除」とは?
~令和8年度改正で3段階から5段階へ。実務への影響も解説~
インボイス制度の導入により、「免税事業者との取引」における消費税の取り扱いは大きく変わりました。
従来は、請求書の形式に厳密な要件はなく、一定の帳簿保存があれば仕入税額控除を受けることができました。しかし現在は、原則として「適格請求書(インボイス)」がなければ仕入税額控除は認められません。
問題となるのが、免税事業者の存在です。免税事業者はインボイスを発行することができないため、そのまま取引を続けると、買い手である課税事業者側で仕入税額控除ができず、結果として税負担が増加します。
この急激な負担増を緩和するために設けられたのが「経過措置」です。
経過措置の基本的な考え方
経過措置とは、インボイス制度の導入直後における混乱や急激な税負担の増加を防ぐため、一定期間に限り「免税事業者との取引でも一部の控除を認める」という特例制度です。
つまり、本来であれば控除できないはずの消費税について、段階的に控除できる割合を減らしながら、最終的には完全に控除できなくするという“ソフトランディング”の仕組みになっています。
当初は3段階での縮小が予定されていましたが、令和8年度税制改正により、より緩やかな5段階へと変更されました。
改正後の控除スケジュール
控除割合は以下のように段階的に引き下げられます。
- 令和5年10月1日~令和8年9月30日:80%控除
- 令和8年10月1日~令和10年9月30日:70%控除
- 令和10年10月1日~令和12年9月30日:50%控除
- 令和12年10月1日~令和13年9月30日:30%控除
- 令和13年10月1日以降:控除不可(0%)
制度開始からしばらくは「8割控除」が認められるため、実務への影響は限定的に見えるかもしれません。しかし、この割合は確実に引き下げられていくため、中長期的には無視できないコスト増となります。
特に「50%→30%」のタイミングでは、体感としての負担増が一気に大きくなるため、ここが一つの転換点になります。
具体例からイメージ
例えば、免税事業者に対して税込110万円(消費税10万円相当)を支払った場合を考えてみます。
- 80%控除 → 8万円控除できる(2万円がコスト)
- 70%控除 → 7万円控除(3万円がコスト)
- 50%控除 → 5万円控除(5万円がコスト)
- 30%控除 → 3万円控除(7万円がコスト)
- 0% → 控除なし(10万円すべてコスト)
このように、同じ取引でも時期によって実質負担が大きく変わる点が重要です。
誰に影響があるのか?
この制度は主に以下の2者に影響します。
① 免税事業者
インボイスを発行できないため、取引先から不利な条件を提示される可能性があります。
② 課税事業者(買い手)
控除できない分がそのままコスト増となるため、経営に直接影響します。
特に課税事業者側の影響が大きく、仕入先の選定や価格交渉のあり方に変化が生じます。
実務で起こる変化(かなり現実的な話)
現場レベルでは、すでに次のような動きが出ています。
- 「インボイス登録してもらえませんか?」という要請
- 消費税相当額の値引き交渉
- 免税事業者との取引縮小・見直し
- 新規取引時にインボイス登録の有無を確認
つまり、インボイス制度は単なる税務論点ではなく、「取引条件」に直結する制度です。
免税事業者側の判断ポイント
免税事業者にとっては、次の選択を迫られます。
・課税事業者になる(インボイス登録)
メリット:取引継続・信用維持
デメリット:納税負担・事務負担の増加
・免税のまま継続
メリット:税負担なし
デメリット:値下げ圧力・取引減少リスク
特に控除割合が50%・30%になると、取引先からの圧力はかなり強まる傾向があります。
見落としがちな論点「1億円上限」
今回の改正では、経過措置の適用に関する上限も見直されました。
- 改正前:1つの免税事業者からの仕入 10億円
- 改正後:1億円
これは、大企業による意図的な節税スキームを防ぐための措置です。
ただし、この金額規模はかなり大きいため、中小企業ではほぼ該当しません。実務上は「気にしなくてよいケースが大半」といえます。
実務上の重要ポイント「帳簿保存」
意外と見落とされがちですが、非常に重要なのが帳簿要件です。
経過措置の適用を受けるためには、単に支払いをしているだけでは足りません。
帳簿に以下の内容を記載・保存する必要があります。
- 取引相手が免税事業者であること
- 経過措置の対象取引であること
これが不十分な場合、税務調査で控除が否認されるリスクがあります。
今後の実務対応
これからの対応は「一律対応」ではなく、取引先ごとの整理がカギになります。
例えば、
- 重要な取引先 → 関係維持を優先
- 金額が大きい先 → 交渉・見直し検討
- 代替可能な先 → 切替検討
といったように、戦略的に判断する必要があります。
また、早い段階で方針を共有しておくことで、後々のトラブル防止にもつながります。
まとめ
今回の改正により、経過措置の期間は延長され、急激な負担増は緩和されました。
しかし、最終的には控除ができなくなる点は変わりません。
つまり、
- 「今は大丈夫」ではなく
- 「将来確実に影響が出る制度」
です。
そのため、
- 価格転嫁
- コスト構造の見直し
- インボイス登録の検討
- 取引先の再整理
といった対応を、段階的に進めていくことが重要です。
インボイス制度は、税務だけでなく経営判断そのものに影響を与える制度です。経理部門だけに任せるのではなく、営業・経営層も含めた全社的な対応が求められます。

国税の現場で約33年間、幅広い業種の調査や審査に携わってきた経験を活かし、「関口クラウド税理士事務所」を開業しました。
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